「いとこの結婚式にて」
私がまだ学生の頃、いとこのお姉ちゃんが結婚式の披露宴でピアノを弾いてほしいと頼まれた。曲もリクエストされてしまった。リストの”愛の夢 第3番”。これは私にとって軽々しく「いいよ」と返事できる曲ではなかったが、一緒に遊びに行くと、いつも御飯をおごってもらったりしていたので、イヤとは言えず引き受けた。
曲もまあなんとか弾けるようになり、当日がやって来た。会場は大阪の某ホテル。多少緊張しながらピアノの前に座った、そして、弾き始めると、なんとイスがガクガクして安定しない。座っていたイスはよくある背もたれの付いたイスではなく、クッションの所に縄のれんの様に飾りが付いた丸イスだった。中途、曲が激しくなると、体重のかけ方によって、右へガクッ、左へガクッとなり、そのたびにイスから落ちそうになるのをふんばった。緊張はふっ飛んでいたけど、バランスをとるのに必死で、何を弾いているのかよくわからなかったが、とりあえず弾き終わった。一応、お決まりの拍手はいたらいだが、きっと、イスと共に壊れたリストだったろうと思う。
後日、お姉ちゃんに「イスがボロかった」と文句を言ったら、「でも、ピアノ借りるの高かってんよ」との返事。まったくホテルって所は何かとボる。